2024年9月16日
ビール業界は世界的に激動に直面しています。中国からアメリカまで、何十年にもわたり右肩上がりの成長を続けてきた世界のビール生産量ですが、近年では失速しています。実際に2015年のピーク時と比較すると、2023年の生産量は4%以上落ち込み、18億8000万ヘクトリットルにまで減少。ビール生産大国では、エネルギーコストの上昇や原材料価格の変動、労働力不足により、醸造家にはかつてないプレッシャーがかかっています。こうした課題は、ビール市場を一変させ、生産と流通にその爪痕を残したコロナウイルスの世界的大流行の影響が長引くことにより、さらに深刻化しています。
それに加えて、消費者もまた進化。健康的なライフスタイルを取り入れる人が増えるにつれ、低アルコール飲料やノンアルコール飲料の需要が急増しているのです。若い世代は飲料の選択においてより試行的になっており、醸造所がこれまで伝統的に依存してきたブランドロイヤルティはあまり持ち合わせていません。業界内ではクラフトビールや風味の革新が勢いを増しており、伝統的な醸造所は戦略の見直しを迫られています。
2023年のビール消費量が3.3%減と、ドイツ市場における急減が目立っていますが、この問題は決して局地的なものではありません。世界中の醸造所が、より柔軟で持続可能なデジタル化を進めることにより、事業のあり方を見直す必要に迫られているのです。
若い消費者はバラエティの豊かさと新しい経験を求めており、伝統的なブランドとの絆を断ち切ろうとしています。こういった進化し続ける期待に応えるため、醸造所はより多機能で効率的になる必要があります。
技術的には、伝統的なビールだけでなく、混合酒やハードセルツァー、コンブチャ、プレミックスカクテルといった人気の飲料を提供することへの障害はほとんどありません。ベースとなる糖分を製造する醸造所や、発酵、ブレンド、炭酸、瓶詰めの技術をすでに備えている醸造所にとって、新商品を追加したり現在の商品を作り替えるのは非常に簡単なことです。総合的なエンジニアリングアプローチ、ジャストインタイム生産能力とともに、幅広い製品ポートフォリオを活かすことによって、醸造所は非常にダイナミックな市場において変化し続ける需要にも迅速に対応できるようになります。
低アルコールやノンアルコールビール部門は、ビール市場で唯一成長している部門です。これは醸造所にとって、健康志向の新しい消費者を惹きつけるチャンスとなります。真のビール愛好家にノンアルコールビールを試してもらうのは容易なことではありませんが、追求する価値はあります。ドイツのミュンヘンでは、1328年創業のアウグスティナー醸造所が最近、世界的なペールラガービールのひとつとノンアルコールバージョンを組み合わせ、大ヒット商品を生み出しました。同社が38年ぶりに発売したこの新製品に対する需要は、予想をはるかに上回るものでした。実際、ビールの風味を維持したままアルコール度数を0.0%に下げることができるよう、GEA は多数のお客様の手助けをしており、ノンアルコールシードルやワインの製造においてもサポートを行っています。さらに、出来上がったアルコールベースを、トレンドとなっているビール混合飲料(ビアテル)やハードセルツァーのようなハイブリッドアルコール製品のベースにすることもできます。
サワービールのような季節限定ビールや、ユニークな(厳選の)原材料を使ったビールを提供することも、醸造所が忠実なファンベースを築き、ブランドロイヤルティを強化するのに役立ちます。クラフトビール醸造所は、地元のコミュニティと緊密な関係を築き、地元のイベントにも積極的に参加することにより、新たな収入を得るとともに社会的結束力も高めています。
エネルギーと水を大量に消費する業界に属する醸造所は、気候変動や資源不足、サプライチェーンの不安定さといった課題に直面しています。目標となるのは、新たなビジネスチャンスを開拓しながら、バリューチェーン全体において無駄を削減すること。栄養や健康、生物多様性、気候の相互のつながりに対して意識を高めることで、醸造所の循環性、また結果として回復力をさらに高める、創造的なコンセプトを後押しすることができます。
将来の醸造システムは、洗練されたプロセス設計と最先端技術の使用によって定義されることになります。CO2排出量ネットゼロや、「使用水量とビール販売量」の比率を1:1にすることを目指すのであれば、必要な資源を大幅に削減しなければなりません。GEA の専門家による計算によると、大規模な醸造所では、新築時のエネルギー消費量を最大90%削減できるとのこと。しかし、そのためには前提条件として、従来のワークフローやタイミング、使用技術の見直しが求められます。
すでに醸造所の循環システム化において決定的な役割を果たしている、確立済みの回収技術には以下の3種類があります。
ブリューハウスは醸造所の心臓部です。また、歴史的にエネルギーを大量に消費する場所でもあります。これを変えなければなりません。必要なものだけを煮沸させ、工程でエネルギー(熱)を何度も再利用するような分留のやり方は、すでに従来のブリューハウスのパラダイムに挑むものとなっています。BrauBeviale 2023 において GEA は、エネルギー消費量を60%削減し、麦汁沸騰時間を半減させる新しい麦汁沸騰システムを発表しました。
マーク・シュネーベルガー博士
GEA 研究開発部門、製品開発担当シニアディレクター
廃棄物のアップサイクルは、醸造所が資源を有効活用し、新たな収入源を得るための強力な手段となっています。使用済みの穀類やビール酵母、その他炭水化物の副産物には、未開発の可能性が秘められています。家畜の飼料や肥料といった農業用途にとどまらず、醸造所の廃棄物は、ビーガン製品やパスタ、バイオプラスチックの機能性原料などとして、貴重な資源となります。
「将来的には、私たちが知っているような廃棄物はなくなるでしょう。すべてが副産物、つまり再利用または販売するための資源とみなされるようになるでしょうね。多くの醸造家がまだ探求さえ始めていない未開拓の可能性です」と、GEA 研究開発部門で製品開発担当シニアディレクターを務めるマーク・シュネーベルガー博士は話します。
ビール製造における効率性と持続可能性の向上の鍵は、精密さにあります。デジタル化と自動化は、工程をより予測しやすくし、資源効率を向上させる大きな機会ととらえることができます。BrauBeviale 2023 の GEA Brewery Talk では、飲料業界の専門家である Krombacher Brauerei のマンフレート・シュミット氏と、飲料大手 Coca-Cola Europacific Partners のデジタルエボリューション舵取りを支援したシュテフェン・レーザー氏がこれに同意。変革の意志があれば、ゼロエミッションプラントやAIがサポートする飲料生産はすぐ手の届くところにあると話しています。
「デジタル化によってすべてが解決されるわけではありませんが、データとそのリンクに透明性をもたらすことができます」とレーザー氏は説明し、飲料業界での経験を醸造所にも1対1で反映させることができると付け加えました。例を挙げるとすれば、AIによって測定値を機械オペレーターや生産計画、購買、販売向けの実用的な情報に変えることができるという点です。高度な分析を統合すればするほど、複雑なアルゴリズムにより人間の脳では発見できない洞察が明らかになります。醸造業界は、消費者の需要の変化やコストの上昇、差し迫った環境問題への懸念など、山積みとなった課題に直面しています。適応していくことこそが鍵であり、将来的に成功を収めるためには、柔軟性や循環性、デジタル化がその支柱となるようにしなければなりません。
イノベーションを受け入れる醸造所は、廃棄物を価値ある副産物に変えることで成功を収め、AI を活用して効率を高めるとともに、進化する嗜好に対応する柔軟な製造方法を採用していくでしょう。