2025年23月10日
最近、チョコレートやコーヒーの売り場で、今までよりも数分余計に時間がかかった人がいるのではないでしょうか?価格が高騰したため、多くの人たちがお気に入りの嗜好品を、ショッピングカートに入れるかどうかで迷っています。そして、価格高騰と時折起こる供給問題が、いつまで続くのだろうかと不安になる人も多いことでしょう。気候変動から需要の増加に至るまで、価格高騰と品不足の背景には原因がいくつかあるものの、より大きな問題とは以下の通りです。これについて、何かできるかのでしょうか?
どこにもある農場から家の食卓に至るまでは長い道程です。有害な炭素排出量も増大し、高価な原料の投入が必要であり、降雨と気温の安定化によるので、こうしたことが要因で不安定さが高まります。
食品科学者は、従来の農法と較べて。同じような食品、さらにはバイオアイデンティカル食品への近道として、普遍的な原理に基づいた新しい生産方法を完成させつつあります。たとえば、精密発酵は微生物 (酵母または細菌) を利用して、タンパク質、酵素、ビタミンといった特定の原料を、清浄かつ効率的な方法で生産します。「この製法はビール醸造に似ていますが、生産するのはアルコールではなく、牛乳タンパク質、卵白タンパク質、インスリン、場合によってはココア成分とっいた、より具体的なものを酵母や他の微生物で生産する計画です」と、GEAバイオテクノロジー担当の応用マネージャー、Morten Holm Christensenは説明します。タンクまたは発酵槽で微生物を増殖させ、回収して浄化した上で所期の原料を生産します。
食品生産における、もう一つの近道は細胞培養です。これは家畜や作物の小細胞を採取し、栄養豊富な培養液 (基本的に細胞の栄養) を加えるもので、家畜の体内や土に植えられた作物中のように、細胞が成長・増殖できるように暖かい環境に置きます。鶏肉、牛乳、コーヒーのいずれも、短時間で収穫してバイオアイデンティカル食品に変えるだけのバイオマスがあります。「どちらの製法でも変換効率が遙かに高いのは、家畜の飼育や作物の栽培に時間がかかるのを省き、投入しなければならない大方の飼料、水、肥料、農薬を回避できるからです」と、Christensenは言います。
Morten Holm Christensen
GEAバイオテクノロジー応用マネージャー
朝のラテからお気に入りのダークチョコレートまで、食品の価格は変動しています。ココアもコーヒーも、非常に特殊な気象条件下、限られた地形で栽培する原料に依存しています。異常気象、農作物の病気、土地利用の紛争により、コーヒー豆とココア豆不足が起き、両方の需要が拡大し続ける中、価格が上昇しています。
興味深いことに、同じ原料なのに最終食品になるとチョコレートもコーヒーも同じ味ではありません。つまり、風味や口あたりといった消費者が楽しむものは、伝統的な方法で育てた豆だけに頼っているわけではなく、他の原料や加工方法を採用することで模倣できるのです。
ココアを使わないチョコレートにする方法の一つは、農業用の渓流取水を利用することです。ドイツ企業の場合、ヒマワリ油の生産で出た残滓を利用して、酵母でチョコレートを精密発酵させています。その結果、従来のチョコレートにある「パリッ」とした食感、味、口当たりが再現されています。すでに生産者は入手可能で、この原料とココア脂代替品として ヨーロッパとイギリスのさまざまなcに使用されており、従来の食品に比べて炭素排出量を最大 90 パーセント削減しています。同様に、シンガポールを拠点とするスタートアップ企業は発酵技術を採用して、豆腐生産から出る御殻でココアを使わないチョコレートに変えています。同社は2025年にB2B市場向けとして商品化を目指しています。
並行して、ココアパウダーやココア脂肪のようなバイオアイデンティカル食品を作り、これらの原料は食品メーカーに販売するため、いくつかの企業がバイオリアクターで本物のココア細胞を培養しています。米国では、カリフォルニアに拠点を置くバイオテクノロジー企業が、抽出したカカオ培養細胞でチョコレートを生産しています。カカオが育つ熱帯雨林を模倣した環境下、発酵タンクでカカオが培養されます。3~4日経つと細胞を採取し、発酵させて焙煎しますが、これは伝統的なココア生産と同一の最終段階です。米国食品医薬品局の認可を受けた後、2026年に商品化の予定です。
チョコレート同様、代替コーヒーへの道には、精密発酵と細胞ベースという両アプローチがあります。たとえば、件のシンガポールにあるスタートアップ企業は精密発酵を採用し、アップサイクルされたパン、御殻、屑麦から豆を使わないコーヒーを生産しています。この食品は小売店に卸されています。
イスラエルのバイオベンチャーは、コーヒーノキから抽出した細胞を使って、わずか3週間で1,000本の木に相当する伐採が可能という、細胞培養方法を開発、通常であれば何年もかかります。細胞は、細胞の効率的な成長を助ける栄養素の入った液体培地に加えられます。回収したバイオマスは乾燥させて穏やかに焙煎するわけですが、当然のことながらカフェインも含め、見た目も味も従来の挽いたコーヒーと変わりません。この企業の次のステップは、規制当局の承認を得ることです。チューリッヒを拠点とするスタートアップ企業は、近傍の温室で育てられたアラビカ植物を調達してコーヒー細胞を採取、100%地元産の食品を可能にしようとしています。
現在、大衆市場向けに生産されているコーヒーとココアの品種はほんのわずかです。細胞培養により、よりニッチな品種を少量生産できるようになる可能性が生まれ、消費者は今まで以上に多品種の食品を選択できるようになります。
Morten Holm Christensen
GEAバイオテクノロジー応用マネージャー
遺伝子コーディングと丈夫な細胞株を開発したことにより、豆を使わないココアとコーヒー、ブラゼイン、その他の多くのニューフードの製法を確立しました。次のステップは、規制当局の承認を取得し、生産規模を拡大することです。これは、環境の観点から「最大容量」が制限されている、伝統的な農業において生産量を補う上で重要な足がかりとなります。
研究室での画期的な成果から量産食品に至るまでの時間を短縮するには、生産者はコスト、量、品質の障壁を克服しなければなりません。これには24時間体制で、食品グレードの衛生状態を維持し、効率的に稼働する機器が必要です。「GEAのような企業が、食品加工と深い細胞農業の専門知識が、スタートアップ企業や食品生産者に入口を提供します」と、Mortensenは説明します。「たとえば、当社テストセンターには最新の装置と専門知識があ.オペレーターがいるので、お客様が投資を誘致し、より早く市場に参入できるようサポートします」現時点では原料市場に注目が集まっていますが、バイオテクノロジーソリューションは、消費者向けの完成食品に一層不可欠なものとなりつつあり、さらに食品の需要と供給のギャップを埋めてくれるので、それ無しにはやっていけなくなるでしょう。